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  • 映画『紅の豚』 飛ばねぇ~豚はただの豚だ、これこそ男のロマン!

    映画『紅の豚』 飛ばねぇ~豚はただの豚だ、これこそ男のロマン!

    映画『紅の豚』 Porco Rosso

    紅の豚
    © 1992 Studio Ghibli・NN

    カッコイイとは、こういうことさ。

    大人向けの宮崎アニメ

    宮崎駿アニメの一作品。
    彼の作品には数多くの名作が有る、いやいや出す作品全てが傑作と言えるくらい素晴らしい。
    でも個人的にはこの作品、彼の作品の中でもっとも好きな作品の一つだ。
    理由は簡単、(誤解を恐れずに言えば)男のための作品だから。

    『もののけ姫』も『風の谷のナウシカ』も素晴らしい。
    作品の出来と言う点では、そっちの方が上かもしれない。
    あと郷愁を誘うというか、心にしみる作品というと『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』などが有る。
    でも、男のロマンを描いた作品は、この作品と『ルパン三世 カリオストロの城』くらいのものである。

    宮崎アニメの醍醐味は、やっぱりその人間描写。
    宮崎アニメの登場人物は超人的な動きをする、人間らしい動きをデフォルメしているからだ。
    そのデフォルメの巧さは、宮崎アニメの神髄だろう。
    それを始めて見せられたのは「未来少年コナン」で有る。

    さてさて話がどんどんそれていくから、元に戻してと、宮崎アニメに特有の小道具や大道具、そう今回は飛行艇だけど、彼の近未来の乗り物や武器や生物?の描写も面白いけど、前時代的な乗り物の描写がとっても私は好きなのである。

    『ルパン三世 カリオストロの城』ならスバル380とか、ワルサーP38とかね。
    そんな飛行艇(おもちゃ?)に乗って動き回る男(ここでは豚だけど)観ている男ども(あっ!私)は憧れを胸に抱く。
    飛行機や船、そして車にはどこまでも自分の手で行きたいところに行けると言う自由さが有る。
    これが男の心、私の心をくすぐるのだ。

    でもその一方で、飛行艇を作るのが(戦時と言うことも有って)女性ばかりと言うのは、実はそんな男たちを自由に飛び回らせているのは、私たち女性よ!と言う主張も見えたりして!う~ん。

    男のロマンを思いっきり描きながらも、それを支える女性、それを愛する女性を描く、なんてロマンチックでカッコイイ映画なんだろう!

    それと今回のこの作品、声優さんの配役が素晴らしい。
    ポルコの声に森山周一郎の低い声が何とも、である。
    そしてマダム・ジーナに加藤登紀子を持ってきて、しかもしっかりと歌声まで聞かせてくれる。
    やっぱりこの映画は男のロマンだぁ~って。

    Reviewed in 06.2000

    2017年、宮崎駿監督は復活するのか?

    どうやら2019年に新作を作ることで話は進んでいるらしい。

    NHKスペシャル「終わらない人・宮崎駿」での放送で【企画書・覚書】を鈴木敏夫プロデューサーに渡して「お金を集めて」と言うところで終わっている。
    で、何を作るか?についていは明らかにされていないので、鈴木敏夫プロデューサーがヒットさせるタイミングを図って発表するんだろうなぁ~と思う。

    どちらにしても、今度は家族で楽しめる作品になるんだろうなぁ~と予想している。
    逆にいうと宮崎駿作品は、子供向け・子供と大人が一緒に楽しめる作品ということが本人も言っていることだけど、この『紅の豚』と『風立ちぬ』に関しては大人に向けた映画のような気がする(一応、ジブリの前の『ルバン三世 カリオストロの城』も大人向けだけど)。
    共通するのは、戦争で亡くなった人々が空に飛びだっていくシーンがある。

    映画『紅の豚』のデータ

    紅の豚 Blu-ray — Amazonで見る

    Porco Rosso 93分18秒19コマ 1992年 日本

    監督■宮崎駿
    原作■宮崎駿
    脚本■宮崎駿
    作画監督■賀川愛/川口俊夫
    美術■久村佳津
    色彩チーフ■保田道世
    音楽■久石譲
    主題歌■「さくらんぼの実る頃」 歌:加藤登紀子(J.B.Clement-A.Renard)
    挿入歌■「時には昔の話を」 作詞・作曲・歌:加藤登紀子
    音楽制作■徳間ジャパン
    録音演出■浅梨なおこ
    プロデューサー■鈴木俊夫
    制作■スタジオジブリ
    公開■1992.7.18
    作画枚数■58,443枚
    使用色数■476

    コピー■「カッコイイとは、こういうことさ。」 (糸井重里)

    キャスト(声)■ポルコ・ロッソ 森山周一郎/マダム・ジーナ 加藤登紀子/ピッコロおやじ 桂三枝/マンマユート・ボス 上條恒彦/フィオ・ ピッコロ 岡村明美 /ミスター・カーチス 大塚明夫/バアちゃん 関弘子

    <DATA>

     宮崎駿の短編漫画を映画化した長編アニメーション。
     ファシスト党の台頭する1920年代のイタリアを背景に、呪いを受けて“豚”となった中年パイロットの活躍を描く。
     森山周一郎がシブい声で扮する主人公・ポルコ・ロッソのダンディズムが光る秀作。
     飛行艇同士によるダイナミックな空中戦や、宮崎自身ファンである各機の細やかな設定も見どころ。 飛行艇を操る空賊が横行していた、第一次大戦後のイタリアはアドリア海。
     賞金稼ぎの飛行艇乗りであるポルコ・ロッソは、空賊たちには天敵の存在。
     自分の顔を魔法で豚に変えてしまったポルコを何とかやっつけたいと一計を案じた空賊たちは、アメリカからスゴ腕の飛行艇乗りを呼び寄せ、彼に一騎打ちを迫る。 <allcinema>

     第一次世界大戦を控えたイタリアのアドリア海。
     空賊と呼ばれる飛行艇をつかって船を襲う賊の一団、それを撃退するために金で雇われる賞金稼ぎ。
     賞金稼ぎの一人、ポルコはかつて人間だったものの今は豚になって、赤い飛行艇に乗ることから“紅の豚”と言われていた。
     ある日、空賊は、いつもポルコに邪魔をされることから、アメリカ人のカーチスに用心棒を頼む。
     ポルコの飛行艇が調子が悪いときに、カーチスに発見されて、ついには撃墜させられるポルコ。
     ミラノで飛行艇工場を営むピッコロおやじの元に行き、修理を依頼するが男手は無く、設計するのも孫のフィオという少女。
     しかしフィオの腕は確かで、ポルコの飛行艇は以前にも増して、素晴らしい操作性を示す。
     そしてその飛行艇を持って、再度、ポルコはカーチスと勝負することとなるが・・・

  • 映画『CUBE』 好奇心と恐怖心、そして絶望、現代社会の縮図を描く傑作スリラー

    映画『CUBE』 好奇心と恐怖心、そして絶望、現代社会の縮図を描く傑作スリラー

    映画『CUBE』 CUBE

    CUBEキューブ

    世界を犯す、騒がしい絶望。
    カナダの恐るべき新鋭がおくる、20世紀の言葉では語れないオーヴァー・ジャンル・ゲーム・ムーヴィー。

    キューブ (字幕版) — Amazonで見る

    既に20年前の作品、VFXがもたらした新しいジャンルのスリラー

    この作品、“オーヴァージャンル・ゲームムービー”と言うらしい。
    そうスリラー、SF、サスペンス、犯罪、脱獄、そしてスプラッタの要素が入り組んでいる。

    まずは、相当怖いスリラー&スプラッタ作品であることが判る。
    いきなり視覚的に、キューブの内部に罠が仕掛けられていることを見せる。
    従って、一つの扉の向こうに何が有るか?観ているものを恐怖に陥れる。

    この作品、映画館で観たら、よっぽど怖かったに違いない、到底、私には怖くて挑戦する気にはなれないけど(汗)

    キューブ内部のデザインは、幾何学的な模様が描かれ、四角い部屋の閉塞感、そして部屋毎に違う過激な色調で、観ているものの感情を不安定にさせる。
    それは内部にいる人間においては尚更だろう。

    この映画の素晴らしい点は、以下の2つの点で楽しめることだろう。
    一つはサスペンス的な要素と言うか、キューブからの脱出劇であろう。
    数学を駆使したトリックは、なかなかユニークで面白い。

    ネタバレになるが(これから観る人は読まないで!)、キューブが移動していること、実は一部屋だけ、26×26×26の部屋の外に一つだけ部屋が余計に有ること...そしてスタートの部屋がゴールで有ること...この意外性、決して新しくはないが、よく考えられている。

    実際、数学的な素数や因数の計算は、知り合いの大学院生が、色々解いているところをみると、発想としてもよく考えられていて面白い。
    この謎解きの面白さ、しかもそれがいつ死ぬか判らないぎりぎりの緊迫感の中で行われている点も、より一層、観るものを楽しませる。
    結果として、キューブの罠に掛かり死ぬのは、冒頭の2人だけ。
    この2人の死が、最後まで恐怖感を煽り続けるのは、その扇情的なキューブ内部の造形に有るのだろう。

    そこでは、無機質さがキーになる。
    この無機質さこそが、2つ目のポイントなる。
    もう一つの楽しみは、人間内部の感情とそれに関わる社会を、この数人の登場人物と限られた空間の中だけで、描いている点である。
    キューブ自体の存在を言及する際、目的が有って作られたものではないこと。
    作った人間は、その一部しか、その存在を知ることがないこと。
    そして、誰が作らせたのか?自分たちが何故、その内部に居るのか?それ自体、何も意味がなく、社会と同じく既にそこに存在し、その中で生きていかなければならないこと(ここでは無事脱出する事)。

    出口が見つかった際に、一人の男が出ることを拒む。
    それは実社会に戻る意味がないと。
    そうキューブ自体が社会を切り取っている、それも見事なまで無機質な部分だけを。

    全員の服装は作業着のみとされ、指輪も外されている。
    ただ(キューブ内での)生活に必要な眼鏡だけが残されていた。
    究極な無機質な状態に人が追い込まれることによって、実社会では隠されていた人間の本質(あるいは本性)が如実に現れてくる。
    模範的な人間だと思われていた男が、殺人鬼に変貌していく。
    それは人間が社会の歯車でしかないと知った時に、自分自身を見つめ直し、そこに残った本質が行動となって現れているようだ。

    ラストの光の中に脱出していく様は、脱出の喜びやある種の希望よりも、むしろ、これからの実社会という新たな迷路への恐ろしい前兆を感じさせる。
    単なる“オーヴァージャンル・ゲームムービー”と言うだけではなく、見事に人間性までも描いた作品と言え『ガタカ』等と並ぶ新しい感覚の近未来SF作品である。

    監督はカナダ人のヴィンチェンゾ・ナタリと言う人で、今までは短編映画でその才能を発揮し、SF映画『JM』で絵コンテを担当した人らしい。
    今回、キューブ内のデザインの一部も彼が行ったらしい。
    セットのキューブは、1つ半が作られ、キャストは7名、残りはCGを駆使、製作費も日本円にして約5,000万円という超低制作費。

    短編『エレヴェイテッド』

    Elevated 1997年 カナダ
    監督■Vincenzo Natali Genre
    出演■Vicki Papavs….Ellen/Bruce McFee….Ben/David Hewlett….Hank Country

    付録として?ビデオには、ナタリ監督のデビュー前の短編作品が収められていました。
    エレベータと言う限られた空間内で、見知らぬ人たちが、お互いを疑う『CUBE』にも見られた、人間の本質をここでも描こうとしているのが見える。

    但し、短編と言うことや試行錯誤の部分が見られるので『CUBE』程の完成度は見られない。
    サスペンス映画を試行した作品としては面白い。
    『ゾンビ』を思い出してしまう展開は、やはりメジャー・デビューをする監督としては、通り道的な作品。
    デビッド・ヒューレットは、この後『CUBE』にも出演。

    Reviewed in 06.1999

    映画『CUBE』のデータ

    CUBEキューブ Blu-ray — Amazonで見る

    CUBE 91分 1997年 カナダ

    監督■ヴィンチェンゾ・ナタリ
    製作■メーラ・メー/ベティ・オアー
    製作総指揮■コリン・ブラントン
    脚本■ヴィンチェンゾ・ナタリ/アンドレ・ビジェリク/グレーム・マンソン
    撮影■デレク・ロジャース/スコット・スミス
    音楽■マーク・コーヴェン
    編集■ジョン・サンダース
    美術■ダイアナ・マグナス
    SFX監督■ボブ・マンロー/ジョン・マリエラ
    特殊メイク■カリガリ・スタジオ
    SFX■C.O.R.E.デジタル・ピクチャーズ
    出演■モーリス・ディーン・ウィン/ニコール・デボア/デヴィッド・ヒューレット/ニッキー・ガーダグニー/アンドリュー・ミラー/ウェイン・ロブソン/ジュリアン・リッチングス

    <DATA>

     奇抜なストーリー、斬新なビジュアル・センスで話題となったカナダ産異色サスペンス。
     謎の立方体(=CUBE)に閉じこめられた男女6人の脱出劇を、緊迫感漲る演出で描く。
     ゲーム感覚の謎めいた物語やシュールな美術・SFX等を駆使し、人間の闇部を抉った秀作。

     ある日突然、密室に閉じこめられた6人の男女。
     それは正方形の巨大な立方体だった。
     いったい何のために作られたものなのか、なぜ自分たちが閉じこめられたのかは誰も知らない。
     脱出方法は6つあるハッチのいずれかを選び、同じ立方体でつながっている隣に移動しながら出口を探す以外ないが、いくつかの部屋には殺人トラップが仕掛けられていた。
     そんな中、やがて彼らは安全な部屋を示す“暗号”に気づくが・・・。 <allcinema>

     目が覚めると、四角い部屋の中。
     そこは一辺が約5メートルで、6つの壁面にはそれぞれ隣の部屋に通じるハッチがある。
     そんなキューブの中で偶然に出会った6人、刑事のクエンティン(モーリス・ディーン・ウィント)、数学が得意な女学生レブン (ニコール・デボアー)、女医のハロウェイ(ニッキー・ガーダグニー)、謎の男ワース(デビット・ヒューレット)、精神病者のカザ ン(アンドリュー・ミラー)、脱獄囚のレン(ウェイン・ロブソン)、ここは一体どこなのか、いつから何のためにここにいるのか、外に出ることは出来ないのか、密室に閉じこめられた彼らは葛藤の中で、体力と知力を振り絞りキューブからの脱出を試みるが・・・。

  • 映画『奇跡の海』 キリスト教とセックスの関係についての妄想的考察

    映画『奇跡の海』 キリスト教とセックスの関係についての妄想的考察

    映画『奇跡の海』 BREAKING THE WAVES

    奇跡の海

    宗教を無垢に信じる恐怖

    なんて怖い映画なのだろう~、それが第一印象。
    信仰の描き方がベルイマン的である。

    観ていてまず気付くのが、ハンディのキャメラで撮った映像。
    常に上下に揺れていたり、画面がピンボケしたりする。
    編集も面白い、主人公ベスから他の登場人物にキャメラが移動する時は、そのまま映像を繋ぐが、他の人からベスにキャメラが移動する時は、途中でカットしてスパッと切り替わる。

    全体として映像が寒々として冷たい印象がする。
    それは、そこに写されるスコットランドの風景なのかもしれない(個人的には、デビッド・リーンの『ライアンの娘』のアイルランドを想像した)。
    ベルイマンのスウェーデン等の北欧のそれに近い雰囲気が感じられる(監督さんがデンマークの人ですね...)。
    そう言ったインパクトの有る映像と共に、出だしは俗物的なドラマが展開されるかのように始まる。

    しかし、この作品のテーマは、ラストのシーンが示すように“神の啓示”に有る。
    そのテーマにぐいぐい引き込まれていく。

    怖いというのは、大きく2つの点に関して。
    プロテスタントの非常に厳格な宗派(実際の宗派は私には判らないが)の中で、その人間の取る行動の恐ろしさ。
    主人公のベスは、その中で純粋培養された人間。
    この町に住む人々の宗教観には神の不在を感じずにはいられない。
    そこには形骸化した、伝統しか感じられない。
    神は主人公ベスに啓示を与えるが、それはラストまで、狂気なのか啓示なのか、判らない。
    しかしあれが啓示だとすれば、彼女を生んだこの街の、この戒律や宗教観の肯定になるような気がしてならない。

    確かに主人公のベスは、その純粋さの上、教会の戒律に背き、破門され“(神を愛することは出来ても、神の)言葉(だけ)を愛することは出来ない!”と叫ぶが。
    ベスが娼婦になり、教会から破門になり精神病院に送られそうになるが、脱走して自分の街、自分の実家に戻るシーンが有る。
    しかし街の子供達は、ベスに石を投げつける。
    追いかけては来ては投げつける。
    キリストの教えに、隣人を愛せって有るのに...。

    この街の人々の宗教観が生み出した、伝統や習慣(のようなもの)には恐ろしいものを感じるが、これが絵空事ではないのは、(日本の)オウム(真理教)等を見れば判ること。
    宗教とはある種の洗脳も有るのだから...

    もう一点のこの映画の恐ろしさ...主人公ベス。
    彼女を純真な女性と感じるか?それても知能の低い人間と捉えるか?は有るが、彼女はこの街の宗教観の中で純粋培養されてきた女性。
    結婚によって、男性との初めての行為におよび、その喜びを知る。
    しかし、その後の行動と言ったら、私の目からは常軌を逸しているとしか言えないもの。
    キリスト教って人に与えることでしょ?と言いたくなるような場面が続く。
    愛するものから何でも奪い取ろうとする。
    また純粋上の事なのか?神の言葉を自分で作り上げて語り出す。
    愛をせがむ表情や自分の望みが受け入れられず叫び泣く姿は、私にはどうしても怖く写る。
    彼女の笑いの表情には、何かに取り憑かれたものを感じるのは私だけだろうか?

    主人公ベスの夫は、下半身不随になる怪我をするが、ベスの死と共に歩けるようになっている。
    しかもなんの前触れもなく、突然に!そして鐘が鳴る。
    全て神の“啓示”なのだろうか? セックスレスになった男性のセックスを感じたいがために、妻に他の男との関係を求める、極限の愛の形と言うより、神との関わりを描いた作品として考えさせる。

    でもベスと言う女性像には、嫌悪を感じずにはいられない。
    決して好きな作品ではないが、凄い作品では有る!

    Reviewed in 03.1999

    2017年のラース・フォン・トリアー

    この作品が私とラース・フォン・トリアー監督の出会い、と言っても初めて見た作品という話だけですが。
    ラース・フォン・トリアー監督の初期の傑作で、実はこれが一番判りやすい作品かもしれない。

    この作品はモチーフがイングマール・ベルイマン監督の『処女の泉』に近いが、主人公が死んだ後に聖人(神に祝福される)となるか、異教徒?に葬られるか、の違いがある。
    このあたりが、その後のラース・フォン・トリアー監督の独特な世界観へと突き進む予感だったのかもしれないが。

    ベルイマンが神と人間の関係を日常の中に描いたのに対して、ラース・フォン・トリアーは自由な発想で映像化することにチャレンジしている。
    「天国」「煉獄」「地獄」を描いた『アンチクライスト』や性に縛られる女性を描いた『ニンフォマニアック』など。

    カンヌ国際映画祭で色々な賞を受賞・ノミネートされていることを考えると、ヨーロッパ文化とキリスト教やその他の宗教との関係については複雑な関係で、人々の生活に影響を与えていることが判る。
    宗教観とベルイマン、ラース・フォン・トリアーを考察するのは楽しそうだが、キリスト教ではない私がキリスト教について知っている知識が少なすぎるかもしれない。

    主演のエミリー・ワトソンはこの作品で最高の演技をして見せて、逆にイメージがついてしまったところがある。
    現在も名脇役として活躍しているイギリスの名女優。

    そう言えば、主人公の夫役はステラン・スカルスガルドだったなぁ~
    スウェーデン出身のスカルスガルドはそれまでも脇役として少しずつハリウッド作品にも出ていたが、この作品で一気に有名になり、その後もラース・フォン・トリアー作品に出続けている。
    もちろん、ハリウッドの大作にも出続ける名脇役。

    映画『奇跡の海』のデータ

    奇跡の海【無修正 HDニューマスター版】(Blu-ray) — Amazonで見る

    BREAKING THE WAVES 158分 1996年 デンマーク
    監督■ラース・フォン・トリアー
    製作■ヴィベク・ウィンドレフ/ピーター・オルベク・イェンセン
    脚本■ラース・フォン・トリアー
    撮影■ロビー・ミューラー
    美術■カール・ユリウスン
    音楽■レイ・ウィリアムズ/マーク・ウォーリック
    編集■アナス・レフン
    衣装■マノン・ラスムッセン
    製作総指揮■ラース・ヨーンソン
    出演■エミリー・ワトソン/ステラン・スカースガード/カトリン・カートリッジ/ジャン=マルク・バール/ジョナサン・ハケット/エイドリアン・ローリンズ/ジョナサン・ハケット/サンドラ・ヴォー/ウド・キアー/ミケル・ゴープ/ローフ・ラガス/フィル・マッコール/サラ・グジョン

    1996年アカデミー賞
    主演女優賞ノミネート エミリー・ワトソン

    1996年カンヌ国際映画祭
    審査員特別賞授賞 ラース・フォン・トリアー

    1996年N.Y.批評家協会賞
    女優賞授賞 エミリー・ワトソン
    監督賞授賞 ラース・フォン・トリアー
    撮影賞授賞 ロビー・ミューラー

    1996年L.A.批評家協会賞
    ニュー・ジェネレーション賞授賞 エミリー・ワトソン

    <DATA>

     プロテスタント信仰が強い、70年代のスコットランドの村が舞台。
     ベスは、油田工場で働くヤンと結婚した。
     彼女は、仕事のために家に戻れない彼を愛するあまり、早く帰ってくるよう神に祈る。
     するとヤンは工場で事故にあい、願い通りに早く戻ってきた。
     だが回復しても寝たきりの上に、不能になっていた・・・。
     やがてヤンは、妻を愛する気持ちから他の男と寝るよう勧め、ベスもまた、夫を愛するがゆえに男たちを誘惑してゆく。

     映像派ラース・フォン・トリアー監督は、1996年カンヌ国際映画祭で大絶賛されグランプリを受賞、この作品がデビュー作となる、主人公ベスを演じたイギリス人女優、エミリー・ワトソンは、アカデミー賞主演女優賞にノミネート。
     全8章、2時間38分からなる、濃密な愛の物語。 <allcinema>

  • 映画『風と共に去りぬ』 ハリウッド映画史に残る不朽名作を語ってみる

    映画『風と共に去りぬ』 ハリウッド映画史に残る不朽名作を語ってみる

    映画『風と共に去りぬ』 GONE WITH THE WIND

    風と共に去りぬ

    雄大なスケールの中に燃え上がる炎の恋!映画史に輝く不朽の名作(リバイバル時)

    映画史上、燦然と輝く愛の金字塔!!
    炎のごとく燃え上がる世紀のロマンを雄大、華麗に描いた永遠・不朽の名作(リバイバル時)

    主人公スカーレットとヴィヴィアン・リーの奇跡の出会い

    一番最初にこの作品を観たときは、その良さが全く判らなかった!余りにも幼すぎて・・・
    その後、観たときに感動と共に大きなショックを受けた作品。
    アカデミー賞の監督賞を取ったフレミング監督と共に、映画の後半はジョージ・キューカー監督がメガホンをとった。

    作品としては、その影響もあり2部構成のような作りになっている。
    フレミングはあくまで大河ドラマとしてこの作品を撮り続け、キューカーは人間ドラマとして撮った。
    それでも、この作品が成功したのはプロデューサー・セルズニックの執念の現れだろう。

    当時、最新のカラー技術を用いて、映像的な美しさを演出したのはもちろん、セットも豪華に組まれた。
    俳優陣も、これ以上はないと言っても間違いないだろう。
    レット・バトラー役は、当時はクラーク・ゲイブル以外考えられなかったし、スカーレット・オハラ役はヴィヴィアン・リーを発見することが出来た。
    彼女にとっては、この作品に出たことによって一気にスターダムにのし上がった。
    これだけのスターが出演しながら、それぞれの配役がピッタリとマッチしている点も、今後はなしえないことだろう。

    ヴィヴィアン・リーの発見には逸話が残るぐらい有名。
    数多くの有名な女優がカメラテストを受けたが、恋人でありイギリスの名優ローレンス・オリビエと共にハリウッドを訪れた彼女に、白羽の矢が立ったのは有名な話。

    原作も、ミッチェル女史が南北戦争の話を伝え聞いたことを書き綴った部分と、彼女自身の体験を盛り込んだ話として書かれ、当時の大ベストセラーでもあった。
    ミッチェル女史自身が、かなりの美貌の持ち主であり資産家の娘だったことを考えると、スカーレットはミッチェル自身とも言える。

    この作品の素晴らしい点は、そのテーマにあった。
    確かに最高の俳優に恵まれ、湯水の如くお金を使い、原作にも恵まれた。
    やはりスカーレットの生き様を、南北戦争という大河ドラマをしっかり描きつつ、それに負けない力強さを持って描いていたことだ。
    それは上にも書いたとおり、いくつかの偶然(原作が既に持っていたスカーレット像と、それを演じきれるヴィヴィアン・リーという女優の存在)によってなされた。

    アトランタからタラに戻るシーンで、枯れ果てた木の傍らで力強く立ち上がるスカーレット、レッド・バトラーが去った後でもくじけない、スカーレットの精神的な強さ。
    そこには、アメリカン・スピリットと言う言葉では片づけられない、人間として逞しさ勇気を感じることが出来た。
    このテーマを見事に描き切り、傑作として映画史を語る上で、忘れることの出来ない作品となった。

    Reviewed in 11.1998

    風と共に去りぬ

    人間のドラマの全てが詰まった作品

    久しぶりにこの作品を観た。
    前回観たのは5,6年前でビデオ、映画館で観るのは十数年ぶり。
    今回の上映は、60年前のテクニカラーを再現する事を一番に考え処理したもの。
    今年でちょうど60周年記念と言うこと。

    映像自体は明らかにビデオに比べると美しく、映画館で聞く音楽はまた一段と良い。
    但し、今回の上映館、有楽町スバル座は音響設備が余り良くなかったのが残念。

    それはさておき、何度目か(十数度目か?)の鑑賞になるこの作品。
    何度観ても素晴らしさを実感せずにはいられない作品。
    今回はその素晴らしい点を色々発見する事も出来た。

    まずその最初がドラマとしての素晴らしさ。
    とにかく物語が面白い、それは原作者マーガレット・ミッチェルの功績で有る事は間違いない。
    四人の主人公(レット、スカーレット、アシュレーにメラニー)が魅力的であること。
    理想の男性像としてはレットであり、理想の女性像としてはメラニーなのだろう。
    が、優柔不断さと優しさが混在するアシュレーもまた一つの男性像だし、気が強くわがままで利己的なスカーレットもまた一つの女性像の憧れの姿だと思える。
    その四人の主人公が、アメリカ最大の内乱、南北戦争を舞台にして波瀾万丈の人生を送る。
    大河ドラマと人間ドラマが混在する。
    色々な愛の形を描きながらも、家族の絆や友情、そして奴隷制度や南部の文化も描いている。

    そしてこの劇的なドラマ性を持った小説を、見事に映像化したことの素晴らしさ。
    それは破綻のない演出もしかり、お金をふんだんに掛けたセットもしかり、で有る。

    ここに描かれるテーマは人間の本当の強さとは何か?人間が生き残るには何が必要か?と言うことだと思う。
    だからこそ、今でも人々の心を強く打つのだろう。

    この映画にはおそらく、これからも起こり得ない偶然がいくつも重なって、奇跡が生まれたと言った方が良いのかもしれない。
    それは60年前と言う映画の一番良い時代、ハリウッドの映画製作のシステムが完成した時期で有り、未だ初期の映画作りの純粋さを残していた時期でも有った。
    そして意欲的でバイタリティあふれるプロデューサー、デビッド・O・セルズニックの手元に、この小説が渡ったこと。
    更にクラーク・ゲイブルとヴィヴィアン・リーと言う二人の俳優が存在したこと。
    最後の偶然は、この時期、本格的にカラー映画が出てきたこと(この映画ができたのは第二次世界大戦前である!)。

    小学生の頃、この作品を観たときに、レットの男らしさを理解できず、スカーレットの魅力も理解できなかった。
    ただ壮大なドラマだけに感心したに過ぎなかった。
    それが少しずつ時間が経つにつれて、男女の愛に感動するようになった。

    そして今回は親子の愛情、それに涙する事が出来る年齢になった。
    オハラ親子の愛、レットの娘への溺愛、家族の大切さ...それらもこの作品、開拓精神旺盛なアメリカ人の心のより処、それが家族であることが、今、 この年齢になって理解できる。

    良い映画を何度も観ることの素晴らしさ!それができることが映画の素晴らしさである。
    そしてそう言う映画に出会えることこそが、(一つの)人生の喜びでもある。

    今回、60年前のテクニカラーの美しさ、音楽にのって冒頭のタイトルが出るシーンから心揺さぶられる。
    そして、スカーレットは言う「明日は明日の風が吹く」と。
    その姿こそが、人を強くして生きる道標をとなることを、人々の心に植え付けていく...永遠に!

    Reviewed in 11.1999

  • 映画『カサブランカ』 ボギーを生かすためのバーグマンの美しさ

    映画『カサブランカ』 ボギーを生かすためのバーグマンの美しさ

    映画『カサブランカ』 CASABLANCA

    カサブランカ

    アカデミー賞他世界映画賞に輝く 映画史上最高の《愛》の名篇! あなたの胸に すばらしい感動を捧げます
    激動のカサブランカに 激しくも哀しく燃え上がる 恋の炎–(リバイバル時)

    プロパカンダと甘いメロドラマ

    恋愛映画の良い要素を詰め込むだけ詰め込んで作った、甘い甘いメロドラマ。
    この作品がアカデミー作品賞を取るとは(゚o゜;)ウオオッ(ホント、この作品の演出はなってない・・・)
    とはいえ、この作品にどっぷりと浸かって楽しむのも一つの手。

    話は良くできているし、なんと言ってもボギーとバーグマンの主演の2人の恋愛劇は、観ていて感動もの。
    ボギーは他の作品でも格好良いが、この作品での徹底した二枚目ぶりには脱帽もの。
    またバーグマンは、この作品以外に数々の名演の有る本当の名女優だが、この作品での美しさは絶品!脇役のレインズも良い味を出している。

    対独ムードを盛り上げるプロパガンダの部分も盛り込んで、話を盛り上げているのは少しやり過ぎか?
    それでも、あくまでロマンチックな映像とセリフ、そして音楽と恋愛気分にどっぷり酔いたい時は良いかも・・・。

    Reviewed in 01.1999

    結局のところボギーがカッコイイ

    DVDビデオで、久々にこの名作を鑑賞。
    やはりこの映画、どう見ても国策映画のように感じてしまう。
    と言うのは、この映画のできる少し前、2年前まではアメリカではドイツとの参戦に関して、中立を保つべきか?戦うべきか?で国論が二分されていた。
    結局、この映画が製作された時には、アメリカは参戦する訳だが、そういった時代背景を反映してか、反ナチ色があからさまである。
    仏領モロッコは、フランスの植民地で有り、本来ならフランスも帝国主義の名の下にモロッコを略奪した事も史実である。

    それが第二次世界大戦からフランスの首都パリが、ナチスドイツ軍に占領されると、モロッコもあたかもドイツ領のごとくである。
    フランス人の警視総監ルノーが、ヴィシー産のミネラルウォーターをゴミ箱に捨てるシーンは、粋と感じるか、はたまたやりすぎると感じる か・・・少し複雑なところでもある。

    しかしこの映画をそういった視点で、今、観ることは少し不公平かもしれない。
    この作品は歴史的な映画と言うよりも、はやりラヴ・ロマンスの名品として捉えるのが正しいだろう。

    私がこの映画を愛して止まないのは、男女の心情そして男女の信条が見事に描かれているからだ。
    特にパリでのリック(ボギー)とイルザ(バーグマン)の心の揺れ、心情と信条の葛藤が見事なまでに表現されている。

    マイケル・カーティス監督の演出の上手さは、ボギーに有ると思う。
    きっとバーグマンは、もっと美しく撮れたと思う。
    しかしボギーは、これ以上ないくらい見事なキャラクターになっている。
    ボギーの持つ独特な男らしさを逆に利用して男の弱さを時折見せる、それが効果的なのである。
    だからこそ、リックは映画史上最も男らしい主人公と言えるのかもしれない。

    キザなまでな徹底したセリフ、しかしボギーとバーグマンの二人に掛かると、それが心地よいメロディーに聞こえる。

    今回見たDVDビデオには、ローレン・バコールをナレーションにした30分以上ものドキュメンタリーが挿入されている。
    この作品のできた背景や関係者の貴重な証言も聞くことができるもの。
    画像も美しくリニューアルしているのでお薦めの逸品。

    ※ 最新のBlu-ray版も豪華特典あり

    カサブランカ Blu-ray — Amazonで見る

    Reviewed in 06.2000

    古典として

    また戦後のナチの残党の話として、イングリッド・バーグマンとクロード・レインズが共演しているヒッチコック監督の『汚名』も似たような味わいがある。
    『汚名』はイングリッド・バーグマンを引き立たせるために作られた作品ではあるが。

    2017年日本公開作品にブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの競演で『マリアンヌ』(ロバート・ゼメキス監督)があるが、1942年のモロッコを舞台にした諜報員の男女の話で、非常にモチーフが似ている。
    美男美女の悲恋ということで、古きハリウッド映画の雰囲気がよく出ている。

    映画『カサブランカ』のデータ

    カサブランカ (字幕版) — Amazonで見る

    CASABLANCA 103分 1942年 アメリカ
    監督■マイケル・カーティス
    製作■ハル・B・ウォリス
    原作■マーレイ・バーネット/ジョアン・アリソン
    脚本■ジュリアス・J・エプスタイン/フィリップ・G・エプスタイン/ハワード・コッチ
    撮影■アーサー・エディソン
    音楽■マックス・スタイナー
    出演■ハンフリー・ボガート/イングリッド・バーグマン/ポール・ヘンリード/クロード・レインズ/コンラート・ファイト/ピーター・ローレ/シドニー・グリーンストリート/ドゥーリイ・ウィルソン

    ◆1943年アカデミー賞
    作品賞授賞
    主演男優賞ノミネート ハンフリー・ボガート
    助演男優賞ノミネート クロード・レインズ
    監督賞授賞 マイケル・カーティス
    脚色賞授賞 ハワード・コッチ/フィリップ・G・エプスタイン/ジュリアス・J・エプスタイン
    撮影賞(白黒)ノミネート アーサー・エディソン
    作曲賞ノミネート マックス・スタイナー
    劇・喜劇映画音楽賞ノミネート マックス・スタイナー

    <DATA>

     戦火近づく’40年の仏領モロッコ、カサブランカは、自由を求めて渡米しようとする人々で溢れていた。
     ナイトクラブを経営するリック(ハンフリー・ボガート)の元へ、ナチの手を逃れてここまでやって来た抵抗運動の指導者ラズロ(ポール・ヘンリード)が現れる。
     だがその人物の妻は、かつてパリでリックと恋に落ちたイルザ(イングリッド・バーグマン)だった・・・。

     ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン、そしてカサブランカの警察署長に扮しイイ味を醸し出すクロード・レインズ。
     激動の時代、別れた恋人、再燃する愛--これでもかと注ぎ込まれたロマンティックな要素。
     そして、『君の瞳に乾杯』、『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』など心くすぐるキーワード。
     言わずと知れたアメリカ映画の古典的作品で、アカデミーの作品・監督・脚色賞を受賞。
     だが、リアルタイムで観ていない限り、この作品に“よくできたメロドラマ”という以上の価値を見出す事は困難である。 <allcinema>

  • 映画『影武者』 コッポラとルーカスが認めた黒澤明作品

    映画『影武者』 コッポラとルーカスが認めた黒澤明作品

    映画『影武者』 THE SHADOW WARRIOR

    影武者

    動乱の戦国を巨大なる幻が行く--

    晩年の歴史絵巻、戦記ものというより人間ドラマ

    黒澤明監督晩年の作品と言って良いのだろう。
    黒澤監督は、やはりダイナミックな映像がその最大の持ち味だと思う。
    それこそは映画であり、また人々がダイナミックに躍動することで、一人一人のキャラクターが浮かび上がってくる。

    この作品では、歴史と言うものが大前提にある。
    影武者を捜し出すエピソード自体はオリジナルになるが、武田信玄の「喪を三年秘す」のは歴史的な事実。
    また弟・信廉が一時期、信玄の影武者になっていたのは、これまた歴史的な通説。

    信玄の偉大さが、影武者になった泥棒と武田勝頼を通して描かれている。
    そしてそこにあるのは、戦争の無情さで有る。
    武田信玄ほどの武将になると、戦国時代という時代であったとしても、人命の尊さを知っているのである。
    その事が人の上に立つものの資質なのかもしれない。

    それ以上にこの映画の醍醐味は、武田の騎馬隊を再現した数々の戦闘シーン。
    これだけの規模の人間達を操り、見事に合戦シーンを再現してみせた。
    これこそが映画なのである、黒澤監督にしか出来ないこだわりと完全主義。

    武田信玄と泥棒(影武者)、人格者と卑しい者、この相反する人間性の二役を見事に仲代達也が演じている。
    当初は勝新太郎が演じていたが、勝も黒澤監督も完全主義者で強情、意見が分かれて互いに折れず、勝が役を降りたという。
    そこには黒澤監督の、また勝新太郎の映画への執念が感じ取れる。
    この作品自体、執念の固まりのような凄味が有る。

    Reviewed in 12.1999

    2017年に改めて振り返って見ると

    黒澤明監督は1965年(私が生まれた年)までに作った映画が一番良い時期だったように思う。
    1999年頃はまだ私も日本映画をそれほど見ておらず、黒澤明監督の映画もそれほど見ていなかった。

    この『影武者』にしても続く『乱』にしても、黒澤明時代劇として十分に楽しめる作品だし、VFXを使わずに戦闘シーンを再現できるのは、黒澤明の名前がなければできないことだと思う。

    大規模戦闘シーンを再現できるだけの巨匠になったことは、それを作る資格を意味するが、ダイナミズムがそれで達成できるものではないことも事実と判った。
    『野良犬』『羅生門』から『天国と地獄』『赤ひげ』までのダイナミズムを超えることはもうなかった気がする。

    映画『影武者』のデータ

    影武者 — Amazonで見る

    THE SHADOW WARRIOR 179分 1980年 日本

    監督■黒澤明
    製作■黒澤明/田中友幸
    外国版製作■フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス
    脚本■黒澤明/井手雅人
    撮影■斎藤孝雄/上田正治
    撮影協力■中井朝一/宮川一夫
    美術■村木与四郎/桜木晶(助手)
    音楽■池辺晋一郎
    録音■矢野口文雄
    監督部チーフ■本多猪四郎
    アドバイザー■橋本忍
    照明■佐野武治
    編集■黒澤明
    出演■仲代達也/山崎努/隆大介/萩原健一/根津甚八/大滝秀治/油井昌由樹/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/志村喬

    カンヌ国際映画祭 1980年
    パルム・ドール(グランプリ)授賞

    英国アカデミー賞
    監督賞授賞 黒澤明
    衣装デザイン賞

    フランス・セザール賞
    最優秀外国映画賞授賞

    <DATA>

     巨匠・黒澤明監督が「デルス・ウザーラ」以来5年ぶり(日本映画としては「どですかでん」以来10年ぶり)に製作した、戦国スペクタクル巨編。
     武田信玄の影武者として生きた男の悲喜劇を荘厳にして絢爛な映像で描く。
     戦国時代。
     家康の野田城攻めの折り、鉄砲で撃たれこの世を去った武田信玄。
     弟信廉は信玄死すの報を打ち消すため信玄の影武者を立てる。男は盗みの罪から処刑されるところを信玄と瓜二つだったことから助けられたのだった。
     だが男にとって戦国の雄・信玄として生きることはあまりにも過酷だった……。
     製作費の高騰で計画が頓挫しかかったり、当初主役だった勝新太郎が監督との意見の相違から途中降板するなどの話題にも事欠かなかった。
     カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。 <allcinema>

    全国統一の気運が高まる戦国時代、その雄“武田信玄”は敵を欺くため、影武者を使ったと言われている。
    死刑執行寸前だった泥棒(仲代達也)が、実は武田信玄に瓜二つだったことからこの物語は始まる。
    そして、京に進軍の途中、信玄が死にその遺言で、三年の間信玄の死を隠すことに...
    海外版製作を、黒澤監督を師と仰ぐフランシス・コッポラ、ジョージ・ルーカスが引 き受けることで、製作が実現化した。

  • 映画『汚名』 イングリッド・バーグマンの美しさが罪

    映画『汚名』 イングリッド・バーグマンの美しさが罪

    映画『汚名』 NOTORIOUS

    汚名

    イングリッド・バーグマンの美しさに酔う

    ヒッチコック作品か?それともイングリッド・バーグマンの作品か?それ程、この作品のバーグマンは美しい。
    とは言え、そのバーグマンの美しさを引き出したのは、間違いなくヒッチコックである。

    サスペンスとしての見せ方は、やはり一級。
    作品の細かい背景を全て省き、シンプルな構成に、しかしその中に複雑に張り巡らさせた伏線が、観客をいつの間にか、登場人物に同化させる作用となっている。

    アリシア(イングリッド・バーグマン)とデブリン(ケイリー・グランド)、二人の愛情が、セバスチャン(クロード・レインズ)の嫉妬を生み、それが物語のあらゆる伏線に。
    ブラジルでのセバスチャンと仲間たちの会話で、仲間の一人のミスを責め、暗殺する相談をする。
    この事がセバスチャン自身のミスの隠蔽へとつながる。
    セバスチャンと仲間達の強い絆と共に、そこにある真実は相互不信に他ならない。
    またアリシアが、アメリカでアル中であったことが、毒を飲まされた彼女を見たデブリンに誤解を生ませる。

    相変わらずカット割りの上手さで、見せ方が良い。
    それ以上にバーグマンの美しさが光る、酔いしれる。
    バーグマンは背が高いが、彼女の一番美しいアングルは、上向き加減に目を閉じてキスをする表情。
    これを背の高いケイリー・グラントと組み合わせて、存分に魅せてくれる。

    逆に背の低いセバスチャン役のクロード・レインズの立場が強調されてくる。
    そう彼のコンプレックス、一つは背が低いこと。
    もう一つはマザコンで有ること、この事が大きな伏線になる。
    彼はアリシアのような美しく、大きな女性にモテるはずが無い、受け入れられるはずが無いと考えてい た。
    だからこそ、アリシアが近づいてきた時に、それを有頂天になって何の疑いもなく受け入れてしまっている。
    これは、ヒッチコック自身の、母親に対する愛情の深さと、自分の体型に対するコンプレックスの裏返しだろう。

    また重要なのは、アリシアの中の二つの観念。
    一つは愛国心という道徳観と、もう一つは愛情というもの。
    愛国心のため、またデブリンに対する愛情のために、アリシアは敵のスパイであるセバスチャンと結婚までしてしまう。
    この板挟み、同時にそれはデブリンにも言えること(好きな女性を、他人の妻に送り込む)で、この事が、観客の心情に迷 いを生じさせ同情を生む。
    完璧なまでに作り込まれた脚本(ベン・ヘクト)と、ヒッチコックの見事な演出、そしてバーグマン、グラント、レインズの見事な演技が醸し出す、サスペンスとラブ・ロマンス。

    ヒッチコック作品の中でも秀逸な一本で有る。

    Reviewed in 09.1999 

    映画『汚名』のデータ

    汚名 DVD FRT-036 — Amazonで見る

    NOTORIOUS 101分 1946年 アメリカ

    監督■アルフレッド・ヒッチコック
    製作■アルフレッド・ヒッチコック
    共同製作■バーバラ・ケオン
    助監督■ウィリアム・ドーフマン
    原案■アルフレッド・ヒッチコック
    脚本■ベン・ヘクト
    撮影■テッド・テツラフ
    特殊効果■ヴァーレン・L・ウォーカー/ポール・イーグラー
    美術■アルバート・S・ダゴスティーノ/キャロル・クラーク/ダレル・シルヴェラ/クロード・カーペンター
    音楽■ロイ・ウェッブ
    衣装■イディス・ヘツド
    録音■ジョン・トリビー/クレム・ポートマン
    編集■テロン・ウォース
    製作会社■RKO
    備考■白黒
    日本公開■1948年、1968年、1983年
    出演■ケイリー・グラント/イングリッド・バーグマン/クロード・レインズ/ルイス・カルハーン/レオポルディン・コンスタンティン/ラインホルト・シュンツェル/マローニ・オルセン/イヴァン・トリーソルト/アレクシス・ミノティス/エバーハルト・クルンシュミット/フェイ・ベイカー

    アカデミー賞 1946年
    助演男優賞ノミネート クロード・レインズ
    脚本賞ノミネート ベン・ヘクト

    <DATA>

     父親にドイツのスパイ容疑がかけられ、売国奴の娘と呼ばれたアリシア(イングリッド・バーグマン)にFBIの捜査官デブリン(ケイリー・グラント)が接近してきた。
     ナチの残党と思しき人物セバスチャン(クロード・レインズ)が父の友人であったことから、アリシアにその内情を探って欲しいという依頼だった。
     舞台は、マイアミからリオ・デ・ジャネイロに移り、アリシアはそこでセバスチャンの求婚に応じるが、デブリンとの連絡も引き続き行われていた。
     やがて、彼女は屋敷の酒蔵で組織の秘密を突き止めるが、その事に気づいたセバスチャンは・・・。

     ヒッチコック作品の中では、スリラーの要素よりもメロドラマの色を濃くした作品で、バーグマンとグラントが見せた熱烈なラブ・シーンは公開当時かなりの話題となった。
     登場人物の設定と行動について、いささか説明不足の感もあり、ドラマの中にすんなり入って行けるとは言い難いが、さすが、個々のサスペンス醸造は見事。 <allcinema>

  • 映画『エリザベス』 血に塗られた女王・エリザベスを見事に描く

    映画『エリザベス』 血に塗られた女王・エリザベスを見事に描く

    映画『エリザベス』 ELIZABETH

    エリザベス

    世界の映画賞、堂々16部門受賞!!!
    その瞳が、唇が、その存在が革命<ヴァージン・クイーン>25歳。

    ヴァージン・クィーン演じきったケイト・ブランシェットの世界デビュー!

    イギリスの歴史時代劇と言うだけで、ちょっと楽しみにしていた作品。
    しかも今年(1999年)のアカデミー作品賞ノミネート作品でもある。
    ノミネートされた作品の中では、日本公開が一番遅い作品となったが、これまでのノミネート作品のどれもが面白く質が高く、その点でも楽しみにしていた作品。

    観終わった時の第一印象が、あぁ~楽しかった!なのである。
    私は歴史物が好きで、しかも時代に翻弄された人々を描いた作品を観ると、とっても感動してしまうのである。
    で、この作品はどうかというと、余り感動はないのだが楽しいのである!

    第一印象の後に、不満がいくつか出てきたことも確か。
    スケール感がないのである。
    映像も絢爛豪華だし、建築の様式美や船遊びの花火のシーン等の演出はあるのだが、どのシーンも奥行きが感じられないのだ。
    この点は、ヴィスコンティが涎が出るくらい巧いのだが、どうもこの作品ではお金の掛け方が足りないような気がするし、後はカメラワークが今ひとつな気がした。
    映画が始まってすぐは俯瞰などのシーンが有って良かったのだが、どうも画面全体が暗いことも有って、一つの場面での奥行きが出てこない。
    また、如実なのは、戦場のシーンでエキストラをケチったのか?写している場面が狭いような気もした。

    それと重厚さと言う点で、今ひとつなのである。
    エリザベスⅠ世の時代絵巻なのだから、個々の登場人物の描き込みをもう少ししたら良いのにと思う。
    一番気になったのが、ノーフォーク公の描き方。
    彼はメアリーⅠ世が亡くなったときに、女王の証である指輪をエリザベスに渡すように指示する。
    このシーンは、彼がイングランドに対しての忠誠心の高さ表す。
    その人物がエリザベス暗殺の中心人物になる理由や背景をもう少し描くべきだったような気がする。
    結局、時代という背景の描き込みが、もう少し踏み込まれていないことが、この作品から、重厚さを奪ってしまったのだろ う。

    また、この時代は暗殺や策略が当たり前。その点、もっと残虐なシーン等が有ると、逆にエリザベスの凛々しさや清らかさが際立ったのでは?と思わせる。

    が、これらの点が有ったとしても面白かったと思わせるのは、この映画のテーマは、その時代性よりも、エリザベス自身の 成長と言う点に焦点を絞り、それに応えてケイト・ブランシェットが見事な演技をしたことに有ると思う。

    不遇の少女時代から恋に落ちて、そして女王になり裏切られ政治の中で辛い立場に置かれてしまう。
    その中で愛らしく美しい女性から、戸惑いながら苦しむ女性、そして威厳と自身に満ちあふれた女性への変貌。
    決してブランシェットが美しい女優だとは思えないが、繊細な表情の素晴らしかったこと!彼女を見るだけで、この作品を観る価値が有ると思えてしまう。

    また彼女を囲む俳優陣。
    『恋におちたシェイクスピア』(時代も同じエリザベスⅠ世)と重なるジョセフ・ファインズとジェフリー・ラッシュの二人は、こっちの作品の方が断然良い。
    特にジェフリー・ラッシュが、ファニー・アルダン演じるメアリー・ド・ギーズを暗殺しに行ったときの演技が素晴らしい。
    他にもイギリスやフランスの名優が、素晴らしい演技を披露してくれる。

    結局、ケイト・ブランシェットの瑞々しさが私に楽しい!と言う思いにさせてくれた作品でした。
    アカデミー賞を授賞したジェニー・シャーコアのメイクアップは素晴らしかったし、意外と音楽が良かったなぁ~と。
    それにしてもこの作品、どこか『ゴッドファーザー』に似ていませんか?

    最後に、元フランス代表のサッカー選手だったカントナが、結構、演技して頑張っているのを観て思わず微笑んでしまっ た。

    Reviewed in 09.1999

    映画『エリザベス』のデータ

    エリザベス (字幕版) — Amazonで見る

    ELIZABETH 124分 1998年 イギリス

    監督■シェカール・カプール
    製作■アリソン・オーウェン/エリック・フェルナー/ティム・ビーヴァン
    脚本■マイケル・ハースト
    撮影■レミ・エイドファラシン
    プロダクション・デザイン■ジョン・マイヤー
    衣装■アレクサンドラ・バーン
    編集■ジル・ビルコック
    音楽■デヴィッド・ハーシュフェルダー
    キャスティング■ヴァネッサ・ペレイラ/シモーヌ・アイルランド
    ライン・プロデューサー■メリー・リチャーズ
    メイクアップ■ジェニー・シャーコア
    共同製作■デブラ・ヘイワード/リザ・チェイザン
    出演■ケイト・ブランシェット/ジョセフ・ファインズ/ジェフリー・ラッシュ/クリストファー・エクルストン/リチャード・アッテンボロー/ファニー・アルダン/キャシー・バーク/エリック・カントナ/ジェイムズ・フレイン/ヴァンサン・カッセル/ジョン・ギールグッド/ケリー・マクドナルド/ダニエル・クレイグ

    1999年 アカデミー賞
    最優秀メイクアップ賞授賞 ジェニー・シャーコア
    作品賞ノミネート
    主演女優賞ノミネート ケイト・ブランシェット
    撮影賞ノミネート レミ・エイドファラシン
    美術賞ノミネート ジョン・マイヤー
    衣装デザイン賞ノミネート アレクサンドラ・バーン
    作曲賞(ドラマ部門) デヴィッド・ハーシュフェルダー

    1999年(第51回) 英国アカデミー賞
    最優秀イギリス映画賞授賞
    最優秀主演女優賞授賞 ケイト・ブランシェット
    最優秀撮影賞授賞 レミ・エイドファラシン
    最優秀メイクアップ賞授賞 ジェニー・シャーコア
    最優秀楽曲賞授賞 デヴィッド・ハーシュフェルダー
    その他、7部門ノミネート

    1999年 ゴールデン・グローブ賞
    最優秀主演女優賞(ドラマ部門)授賞 ケイト・ブランシェット

    <DATA>

     16世紀イングランド。 3歳で私生児の烙印を押され、21歳で反逆罪に問 われロンドン塔に幽閉される。
     そして25歳で史上二番目のクイーンに即位。
     渦巻く権力闘争と血塗られた宗教争い・・・。
     全ヨーロッパを敵に回す中で、男を愛し、傷つき、愛を脱ぎ捨て、女をそして人間を超えた存在<ヴァー ジン・クイーン>となったエリザベス。
     彼女の壮絶な生きざまを描いた愛と激動の2時間 04分!

     英国王ヘンリー8世と、その愛人アン・ブーリンの間に生まれたエリザベス。
     腹違いの姉、メアリー女王の死後、弱冠25歳でイングランド女王に即位。
     側近のウォルシンガ ム、セシル、ノーフォーク卿でさえも誰が敵か味方か分からない中で、唯一彼女の心 の支えになっていた恋人のダドリー。
     王室のスキャンダルの的となりながらも、毎晩逢い引きを重ねる中で、国内の宗教争いは激化し、イングランド史上最大の危機に直面する。
     エリザベスを失脚させようと、時の権力者ローマ法王を始め、全ヨーロッパから忍び寄る暗殺司令と陰謀の影―。
     その計画の中に恋人のダドリーも加わっているという衝撃の事実を知る。
     自分の家来やヨーロッパ中に敵を作りながらも優れた判断力と英知で国を建て直そうとしたエリザベスだったが、無益な戦いで国民が傷ついていくのを目の当たりにした彼女は、ある決意をする・・・。

     爛豪華な世界の中で、ハリウッドのアクション大作を凌ぐ迫力の映像が展開! 女王エリザベスには、ゴールデングローブ賞他各賞を総なめにし、あのブラッド・ピットも大絶賛した新星ケイト・ブランシェット。
     その他、恋人のダドリーに「恋におちたシェイ クスピア」のジョセフ・ファインズ、「恋におちたシェイ クスピア」、「シャイン」のジェフリー・ラッシュ、「ドーベルマン」の ヴァンサン・カッセル、トリュフォー作品で知られるファニー・アルダンら、実力対決も見物。
     監督は本作で世界的な注目を浴びた「女盗賊プーラン」のシェカール・カプール。
     全てのルールを破り、世界の映画賞、堂々16部門を受賞した革命的映画がいよいよ 公開される。 (オフィシャル・サイトより)

     

  • 映画『美女と野獣』 美しくなったエマ・ワトソンを楽しむ恋愛映画の王道!

    映画『美女と野獣』 美しくなったエマ・ワトソンを楽しむ恋愛映画の王道!

    映画『美女と野獣』 BEAUTY AND THE BEAST

    美女と野獣

    彼は探していた。かけがえのない自分を。
    彼女は信じていた。かけがえのない自分を。

    大ヒット上映中!

    エマ・ワトソンが美しい、純愛映画!

    フランスの民話から1991年にディズニーがアニメ化して大ヒットした名作を実写化。
    アニメ版と同様にミュージカルで、冒頭からエマ・ワトソンが歌いまくる!

    恋愛映画としても完成度が高く、カップルからファミリーまで楽しめる作品。
    デート映画としては最強かもしれない!

    フランスを舞台にした物語で、古くは詩人で監督のジャン・コクトーの手でも映画化、近年でも「なぜ、王子は野獣にされたのか?」にスポットを当てて映画化されている。

    今回は1991年のディズニー・アニメを忠実に実写化、物語も音楽も、しかもカメラワーク、衣裳までもかなり忠実に再現している。
    アニメが大ヒットしただけに、そのアニメ版のファンを失望させない作りにしたという。

    では、なぜ実写化したのか?そして実写版の方がなぜ面白いのか?
    もちろん、ストーリーや音楽や素晴らしい映像を楽しむだけでも十分な価値がある。

    エマ・ワトソンのベルに意味がある

    エマ・ワトソンといえば『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー。
    その可愛らしさがずば抜けていたし、10歳から20歳までの10年間をハーマイオニーとして演じていたが、子役にありがちなイメージが変わってしまうことなく、美しい女性に成長していった。

    そこで今回のベル役。
    ディズニー・アニメを基にした物語としては、とても現代的な女性として描かれていて、結婚もしないで本ばかり読んで村の外の大きな世界に夢見る女性として描かれる。

    そんな現代的な女性が純愛として描かれる物語のヒロインとして、変化していく姿、それは夢見る少女から恋愛する女性への変化を、実際の女優が演じることで非常に豊かさや表現力で見せてくれている。

    アニメは非現実な世界を受け入れやすいバックボーンを作るのに適しているが、今回は恋愛物語という部分に焦点を当てて、野獣や映像のVFXを駆使しすることで実写としての違和感をなくし、ベルの心の変化を見せる映画として変わっている。

    簡単に言えば、ベル=エマ・ワトソンを楽しむ映画となっている!

    美女と野獣

    私的『美女と野獣』

    テーマが有るか?共感できるか?

    正統派の恋愛映画としてミュージカル化された1991年のアニメ版そのままに、恋愛の本質は相手の人間性を認めることにあることを感じさせてくれる。
    ガストンのような判りやすい、体格がよくハンサムで力が強い反面教師的な役を出し、それに全く興味を示さないベルが、知識があり繊細さを持ち合わせる野獣に惹かれていく。

    そして真実の愛とは自由!お互いを束縛せずに尊重するところにある、という点に関しては、一貫してあるテーマである。

    今回、保守的なディズニーが、白人と黒人といった人種間の恋愛、ゲイのカップルを登場させたことも、愛の色々な形を肯定的に描いていて、作品の良さという以外にもエポックメイキング的な作品と思う。

    作り手の強い意思を感じるか?

    ディズニーの勇気が凄い!アニメ版でこれだけ不朽の名作として確立した作品を、あえて全く同じストーリーで実写化したこと、そしてアニメ版以上の内容にしてきたこと。

    それはキャスティングにあると思う、かつてディズニーが『メリー・ポピンズ』を映画化する時にジュリー・アンドリュースがいなかったら実現しなかったと思う。

    今回は、醜いものを愛する美しい女性、そして現代的でいながらクラシックな美女、この条件を備えた女優がエマ・ワトソンだったということだろう。

    俳優の意思や演技力が伝わるか?

    この作品を冒頭から見た時に、しばらくはアニメ版と何も変わらなかったので、なぜあえて実写化したのか?判らなかった、アニメ版同様の楽しいミュージカルという趣だった。
    それが中盤からガストンのナルシシズムや虚栄心、野獣とベルの心の交流が表現されるようになってから一気に動き出した感じ。

    俳優がドラマを演じてる、という実感が湧いてくる。
    それまでCGIを駆使したような映画だったのが、エマ・ワトソンを中心に俳優が表情で演じる映画となっていった。
    そしてラストシーン近くで、野獣が王子に戻った後に、ベルが王子の瞳を見て同じ愛した人であることを確認した時のエマ・ワトソンの表情が素敵だった!

    面白いのは、CGで見事に描かれた時計のコグスワースとロウソク立てのルミエール、イアン・マッケランとユアン・マクレガーが、セリフだけにもかかわらず表情豊か?に演じていたこと。

    今回、ハリウッドそしてディズニー製作の映画でフランスが舞台にもかかわらず、ほぼメインのキャストは(ベルの父親役のケヴィン・クライン以外)イギリスの俳優ばかりというところも面白い。

    もちろんエマ・ワトソンもイギリス出身の女優であり、ハリウッドのジュリア・ロバーツやキャメロン・ディアスとはタイプが異なり、フランスを舞台とした本作品ではエマ・ワトソンの品があって茶目っ気も感じさせる、可愛らしい美しさが合っているのかもしれない。
    もちろん、アメリカ本国以外・特に日本でのヒットの要因は、エマ・ワトソンのアメリカナイズされていないところが良かったと思っている。

    映画らしい楽しさが備わっているか?

    VFXがここまでできるのか!と。
    既にピクサー、マーベル・コミック、ルーカスフィルムといった映像の最先端技術を持っているディズニー、逆に言うと前半はアニメ版をそのままCGI化したような映像だった。

    これだけ絢爛豪華で、しかもミュージカルとして成立している作品、是非、できるだけ大きな画面、良い音響で見て欲しい。
    私は、TCXとDOLBY ATMOSで見ることができた。

    今回、3D版もあるが、通常の2D版も映像が素晴らしく奥行きを感じさせるものだった。

    エンターテインメント性

    ミュージカルは音楽である!という私の勝手な持論(笑)
    やっぱり『美女と野獣』の音楽はどれとっても素晴らしい!ディズニーの歴代のミュージカルを見てきても、音楽の素晴らしい映画がヒットしてきている。

    『アナと雪の女王』でも映像と音楽の一体化がヒットへとつながっているが、野獣とベルの舞踏会のシーンは、ディズニー映画史上でも最も美しいシーンだと思う。

    今回は主題歌をアリアナ・グランデ&ジョン・レジェンド(『ラ・ラ・ランド』にも出演)が歌っている。
    1991年のセリーヌ・ディオン&ピーボ・ブライソンにも勝るとも劣らない歌声を披露している。

    演出が素晴らしいか?

    今回は意識して、アニメ版と同じカメラワークを駆使したという。
    一方で、ベル=エマ・ワトソンの表情のとらえ方がとても良かった。

    やっぱりまだCGでは、人間表情は表現できないところもあると思う、特に歌いながらの表情は独特なものがあると思う。

    脚本が素晴らしいか?

    1991年とほぼ同じである。
    ベルが少し現代的になった気もする、よりいっそう自分らしさを持った知的な女性になっていると思う。

    それにしても、オープニングからしばらくは、まるで『サウンド・オブ・ミュージック』を見ているようだった。
    ちょっと順番は違うけど、変わった女性のベルのことを村人たちが歌い上げ、ベルが見晴らしの良い丘で歌い上げるシーンは『サウンド・オブ・ミュージック』のオーストリアの山々と教会のシーンに酷似していた。

    何度も見たくなるか?

    誰もがハーマイオニーが主役になった映画と感じたはず(笑)
    エマ・ワトソンが美しく可愛い!それだけでも価値があると思う。

    オリジナル版(字幕スーパー)と日本語吹替版は、私はオリジナル版を見た。
    オリジナルのエマ・ワトソンやダン・スティーヴンスやルーク・エヴァンスまで、どれも歌は素晴らしかった。
    上にも書いたが、ユアン・マクレガーも流石といったところ。

    日本語版は劇団四季版をベースにしたと聞いているが、映像を見るとこちらも魅力的な歌声。
    機会があれば、日本語版も見てみたい。

    これぞハッピー・エンド!という恋愛物語、そして素晴らしい歌と映像に彩られている作品。
    ディズニー作品が繰り返し見られ愛されているが、個人的にはディズニー史上でもトップクラスの作品だと思う。

    私が寄稿したデート映画としての『美女と野獣』の記事は下のリンクでどうぞ!

    映画『美女と野獣』 2017年にオススメする最強のデート映画!

    映画『美女と野獣』のデータ

    美女と野獣

    上映時間■130分
    製作国■アメリカ
    公開情報■劇場公開(ディズニー)
    初公開年月■2017/04/21

    監督■ビル・コンドン
    製作■デビッド・ホバーマン, p.g.a AND トッド・リーバーマン, p.g.a
    脚本■ステファン・チボスキー AND エヴァン・スピリオトプロス
    製作総指揮■ジェフリー・シルバー/トーマス・シューマッハ/ドン・ハーン
    撮影■トビアス・シュリッスラー, ASC
    プロダクション・デザイン■サラ・グリーンウッド
    編集■バージニア・カッツ, ACE
    衣裳■ジャクリーヌ・デュラン
    スコア■アラン・メンケン
    歌曲・作曲■アラン・メンケン
    作詞■ハワード・アシュマンAND ティム・ライス
    音楽プロデューサー■マット・サリヴァン
    スコアアレンジ■クリストファー・ベンステッド
    歌曲アレンジ and 指揮■マイケル・コザリン

    出演■エマ・ワトソン(ベル)/ダン・スティーヴンス(野獣)/ルーク・エヴァンス(ガストン)/ケヴィン・クライン(モーリス)/ジョシュ・ギャッド(ル・フウ)/ユアン・マクレガー(ルミエール)/スタンリー・トゥッチ(カデンツァ)/ネイサン・マック(チップ)/ググ・ンバータ=ロー(プリュメット)/オードラ・マクドナルド(マダム・ド・ガルドローブ)/イアン・マッケラン(コグスワース)/エマ・トンプソン(ポット夫人)

    ©Disney

    公式サイトはこちら

    【ストーリー】

    ひとりの美しい王子が、呪いによって醜い野獣の姿に変えられてしまう。魔女が残した一輪のバラの花びらがすべて散る前に、誰かを心から愛し、愛されることができなければ、永遠に人間には戻れない。呪われた城の中で、希望を失いかけていた野獣と城の住人たちの孤独な日々に変化をもたらしたのは、美しい村の娘ベル。聡明で進歩的な考えを持つ彼女は、閉鎖的な村人たちになじめず、傷つくこともあった。それでも、“人と違う”ことを受け入れ、かけがえのない自分を信じるベルと、“人と違う”外見に縛られ、本当の自分の価値を見出せずにいる野獣──その出会いは、はたして奇跡を生むのだろうか…?

    『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役で世界を魅了した愛らしい少女は、いまや強い意志を持った聡明で美しい大人の女性として、カリスマ的存在となっている。そのエマが「4歳のころから夢中」と語るベルを演じるとき、ベルはおとぎの国の住人であることをやめ、現代を生きる私たちにエールを贈る21世紀最高のヒロインに生まれ変わる。
    また、野獣にはダン・スティーヴンス、ガストンにルーク・エヴァンス、ルミエールにユアン・マクレガーなど、絢爛豪華な実力派スターが結集!

    監督と脚本を務めたのは、大ヒットミュージカルを映画化した『シカゴ』(02/脚本)や『ドリームガールズ』(06/監督・脚本)などで知られるビル・コンドン。

    そして、なんといってもディズニーの『美女と野獣』の魅力は、アカデミー賞/ゴールデングローブ賞/グラミー賞を総なめにした極上のミュージカルナンバー。アラン・メンケン(作曲)とハワード・アシュマン(作詞)によるアニメーション版からの楽曲に、メンケンが新たにティム・ライス(作詞)と組んで作り上げた3曲の新曲が加わり、より華やかさと深みを増した音楽が、世紀の映像体験を約束してくれる。

    ©Disney

  • 映画『海の上のピアニスト』 モリコーネの音楽が人生の素晴らしさを奏でる

    映画『海の上のピアニスト』 モリコーネの音楽が人生の素晴らしさを奏でる

    映画『海の上のピアニスト』 THE LEGEND OF 1900

    海の上のピアニスト

    人生、捨てたもんじゃない

    なんて美しい映画なのだろう。
    監督はあの『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督である。
    再び、この映画でも観客の心をつかんで離さない。

    生まれながらにして天才ピアニストの主人公ナインティーン・ハンドレッドが奏でる音楽も美しく聞き応えもたっぷり。
    この物語自体、トランペッターのマックスの作り話か?果たして本当の話か?判らない。
    だからこそ、神秘的で美しい語り口が許されるのだ。

    これは元々、戯曲として書かれた原作が有る物語だからしょうがないのかもしれないが、非常に映画的な語り口が、ラスト4分の1くらいから、説明的になってくる。
    そう現代(1946年)に豪華客船ヴァージニアン号が爆破される訳だけど、ここで現れるナインティーン・ハンドレッドとマックスの会話・・・大切な会話だけど、それまでが映像によって語られてきたのに、ここにあるのは言葉のみ。
    そして映像としてあるのは、絶対に存在し得ないで有ろうシチュエーションに現れたナインティーン・ハンドレッドなのだ。
    それまでが、存在するのか?しないのか?という狭間に存在していた人物に、いきなりリアリティが与えられてしまう。

    個人的にはこのラスト、夢のままの映像的な展開をして欲しかった。
    ここまで余りに素晴らしい作品だっただけに残念で仕方がない、人それぞれの感じ方だと思うけど。

    と言っても、この映画は素晴らしい。
    トルナトーレ監督は、映画というものを非常にロマンティックな語り口で、いつも私達に映し出してくれる。
    映画によって伝えられるもの、それはリアリティとかと言ったものではなく、作り話(=ファンタジー)であったとしても、その中に心が込められている事が重要なのであると。
    そしてその表現は非常に映像的なのである。

    この作品でも数々の美しいシーンが連続する。
    冒頭の沢山の移民を乗せた船の前に自由の女神が現れ「アメリカ!」と人々が叫ぶシーンと言い、生まれたばかりのナインティーン・ハンドレッドが蒸気機関に揺られながらじょうろでミルクを飲むシーン、大きくなったナインティーン・ハンドレッドが一等船客のダンス・ホールに初めて足を踏み入れるシーンなど。
    船の上に降り積もる雪、そしてナインティーン・ハンドレッドとトランペットの男マックスが出会う嵐の夜シーン。
    時化(しけ)で大揺れの船の一等船客では、靴磨きのために廊下に出された靴が揺れに併せて左右に滑っている。
    マックスはとてもじゃないけどまっすぐ歩けず、船酔いで花瓶に吐いていると、そこに何事も無いように真っ直ぐに立ったナインティーン・ハンドレッドが現れ、ピアノを弾くという。
    床に固定させるストッパーを外させて、まるでピアノ自身がワルツを踊るようにダンス・ホールを動き出す。なんて、素晴らしいシーンなんだろう!
    またジャズの創始者ジェリー・ロール・モートンが音楽での決闘を挑んでくるが、このシーンも見応えが有る。

    更に好きなシーンが、ナインティーン・ハンドレッドは、その人を見て思い浮かんだ音楽を奏でると言う才能を持っているが、ある日、船室の窓の外に見える少女を見て、ピアノによる演奏をするシーン。
    彼女の魅力と共に奏でられる音楽とナインティーン・ハンドレッドの表情。
    映画とは映像を見るもの、そう数々の素晴らしいシーンの積み重ねが、素晴らしい映画を作る。

    そして少女との出逢いと、少女の父親の言った言葉「陸から海を眺めていたら、海が語りかけてきた」で、海が自分の人生の方向性を決めてくれるなら、船を下りてみたいと。
    ただ、結局、自ら下りることは無かった、そう自分には陸地に広がる無限を受け入れることは出来ないと。

    映画では、一つの答えを出していると思う。
    それは友情であり、恋であり、人と人の結び付きが有れば、陸地でも人が生きていくことが出来ると、ただナインティーン・ハンドレッドには、その結び付きが無かっただけなのだと。
    ナインティーン・ハンドレッドの前をいくつもの人生が通り過ぎていく。
    しかし、それは通り過ぎていくだけで、彼の人生とは別のものだった。

    そこには『ニュー・シネマ・パラダイス』と同様に、映画を観る人々に対して、映画も人生の素晴らしさを教えてくれるが、実際の生活にこそ人生の素晴らしさが有るのだと!
    そうトルナトーレ監督は語りかけてくるかのようだ。

    ナインティーン・ハンドレッド役のティム・ロスは、今までの彼の役柄とは違い、普通の人(他の映画ではちょっと危ない役が多い)を演じて見せた。
    その中に人の孤独や優しさを見事に表現していたと思う。
    マックス役のプルート・テイラー・ヴィンスは一世一代の演技だった。

    この映像的な素晴らしい映画、物語の語り口も見事、そして更に素晴らしかったのがエンニオ・モリコーネのスコア=音楽。
    船で出会った人々の人生から音楽を作る、それを見事に旋律に換えていった彼の素晴らしさ。
    この音楽の素晴らしさ、これ無くしては、この映画は生まれなかったであろう。

    「いい物語があって、それを語る人がいるかぎり、人生、捨てたもんじゃない」

    Reviewed in 12.1999

    映画『海の上のピアニスト』のデータ

    THE LEGEND OF 1900 125分 1999年 アメリカ=イタリア

    監督■ジュゼッペ・トルナトーレ
    製作■フランチェスコ・トルナトーレ
    製作総指揮■ローラ・ファットーリ
    脚本■ジュゼッペ・トルナトーレ
    原作■アレッサンドロ・バリッコ
    撮影■ラヨシュ・コルタイ
    音楽■エンニオ・モリコーネ
    プロダクション・デザイン■マウリツィオ・ミレノッティ
    アート・ディレクター■ドメニコ・シーカ
    編集■マッシモ・カグリア
    キャスティング■ファブリツィオ・セルジェンティ・カステラーニ/ヴァレリー・マッキャフリィ/ジェレミー・ジマーマン
    特殊効果スーパーヴァイザー■デイヴィッド・ブッシュ
    出演■ティム・ロス/プルート・テイラー・ヴィンス/メラニー・ティエリー/クラレンス・ウィリアムズ三世/ビル・ナン/ピーター・ヴォーン/ナイオール・オブライアン/ガブリエレ・ラヴィア/アルベルト・ヴァスケス/ハリー・ディッスン/イーストン・ゲイジ/コリー・バック

    映画『海の上のピアニスト』
    ワーナーホームビデオ

    <DATA>

     1946年、トランペッターのマックス(ブルート・テイラー・ヴィンス)は中古楽器屋で甘美なピアノ曲が収録されている1枚の古びたレコードを発見する。
     そ してマックスはこの曲を演奏した「この世に存在しない伝説のピアニスト」の 物語を語り始めた。
     大西洋を果てしなく往復する豪華客船ヴァージニアン号に置き去りにされた小さな命。
     彼の名はナイ ンティーン・ハンドレッド=1900(大人になってからはティム・ロス)。
     時が世紀の変わり目を告げる1900年に、この船で拾われた彼はこ う名付けられた。
     船を下りることなく成長するナインティーン・ハンドレッドは、やがて88のピアノの鍵盤の上で信じが たい才能を発揮する。
     自らの研ぎ澄まされた感性でのみ奏でられるメロディ。
     楽譜は一切読まず、旋律は乗客達の表情や仕草に合わせて紡ぎ出されていく。
     優しく、しかも力強い。
     かつて聞いたこともないその素晴らしい音色は、あらゆる人を感動の渦に巻き込んでいった。
     そしてその噂は海を渡り陸地にまで広がっていくのだった。
     即興の音楽を通し、様々な人々と出会う中、ナインティーン・ハンドレッドはふと「陸地から見る海はどうなのだろう」と思いを巡らす。
     そんな時、舷窓越しに美しい少女を見る。
     その瞬間、彼はやさしいメ ロディを弾き、かつてないほど感動的な音楽を奏でた。
     その少女の姿を船中探し回り、やっと三等船室で見つけるが、ごった返す群衆の渦に引き離され、彼女は消えていってしまう。
     しかし想いを断ち 切れないナインティーン・ハンドレッドは、これまで一度も下りる事のなかった船のタラップに、その足を 掛けるのだった...。